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研究紹介

各研究チームからの発信をまとめています

コラム

【コラム】血液から病気を読み解く ― バイオマーカーと糖鎖研究の新たな可能性 ―

私たちの体の中では、病気の症状が現れる前から、さまざまな変化が起きています。近年、こうした変化を血液などから捉え、病気の診断や治療に役立てようとする「バイオマーカー研究」が大きく進歩しています。

私たち末梢神経・神経免疫グループでは、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)をはじめとする免疫性ニューロパチーを対象に、病気の原因や活動性、治療効果を予測するバイオマーカーの探索を進めています。

CIDPは、免疫の異常によって末梢神経の髄鞘が障害され、手足の筋力低下やしびれを生じる病気です。免疫グロブリン療法などの有効な治療法がありますが、治療によく反応する患者さんがいる一方で、十分な効果が得られない患者さんや、再発を繰り返す患者さんもいます。しかし、こうした治療反応性の違いを事前に予測することは、現在でも容易ではありません。

そこで私たちは、血液中の神経障害を反映するタンパク質であるニューロフィラメント軽鎖(NfL)や、免疫反応に関わるサイトカイン、自己抗体などに着目してきました。実際に、CIDP患者さんの血清NfLが神経障害の程度と関連することや、従来知られていなかった自己抗体が一部の患者さんに存在することを報告しています。こうした研究は、同じCIDPという診断名であっても、その背景に異なる病態が存在することを示唆しています。

さらに近年、私たちが特に注目しているのが「糖鎖」です。糖鎖とは、複数の糖が鎖状につながった分子で、細胞の表面や血液中のタンパク質などに広く存在しています。糖鎖は単なる飾りではなく、免疫反応や細胞間の情報伝達、タンパク質の働きを調節する重要な役割を担っています。

私たちは、CIDP患者さんの血液中の糖鎖を網羅的に解析し、シアル酸を含む糖鎖が健常者より減少していることを明らかにしました。さらに、こうした糖鎖が少ない患者さんほど免疫グロブリン療法への反応が乏しい傾向を認め、2025年に報告しました(Furukawa, Fukami, et al. Eur J Neurol 2025)。これは、血液中の糖鎖の変化が、病気の免疫学的な特徴や治療反応性を反映する可能性を示すものです。今後、より多くの患者さんで検証を進めることで、治療方針を決める際に役立つ新しいバイオマーカーとなることが期待されます。

そして、この糖鎖研究は、末梢神経疾患だけでなく、老化やさまざまな疾患の理解にもつながっています。

現在、私が所属する名古屋大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE)では、ヒトの糖鎖情報を網羅的に解明する国家的な大型研究プロジェクト「ヒューマングライコームプロジェクト(Human Glycome Atlas:HGA)」が進められています。ヒトの遺伝情報を読み解くゲノム研究に対して、HGAは、生命活動を支える糖鎖の構造や機能を明らかにし、病気との関連を解明しようとする取り組みです。

興味深いことに、糖鎖の構造は生まれてから一生変わらないわけではありません。年齢を重ねるにつれて変化し、炎症や代謝異常、さまざまな疾患によってもその特徴が変わることが知られています。つまり、糖鎖には、暦の上での年齢だけでは捉えられない、体の生物学的な老化や健康状態を反映する情報が含まれている可能性があります。

私たちは現在、大規模なバイオバンクの試料を活用し、血液中の糖鎖と年齢、代謝、健康状態との関係を明らかにする研究を進めています。糖鎖の情報を、メタボロームなどの多様な生体情報と組み合わせることで、なぜ同じ年齢でも健康状態や病気のなりやすさが異なるのか、その背景に迫りたいと考えています。

将来的には、糖鎖の変化から生物学的な老化の進み方や疾患リスクを捉え、病気を早期に発見するだけでなく、一人ひとりに合った予防や治療につなげることが目標です。

これまでの医療は、症状や検査所見から病気を診断し、治療することが中心でした。しかし今、血液中の分子情報を詳しく調べることで、病気の背景にある仕組みや、症状として現れる前の変化を理解する新しい医療が見えてきています。

末梢神経疾患の臨床研究から始まった私たちのバイオマーカー研究を、糖鎖という新たな視点から老化や疾患全体の理解へと広げていく。そして、得られた研究成果を一人ひとりの診断、予防、治療に還元することを目指して、研究を進めています。

文責:末梢神経・神経免疫グループ/糖鎖生命コア研究所 深見祐樹

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